サプライチェーンを磨く目的
サプライチェーンを強化して経営上の優位性につなげ、大きな成功を収めた企業に米国のスーパー運営会社ウォルマートがある。
彼らは1970年前後の物流システム改革や物流センター開設を通じて発注・入荷速度を高め、複数店舗を束ねた在庫管理を実現して、競合他社が店舗を出さないような小さな商圏に出店しても利益を出せるオペレーションを築いたのだ。(打ち手の詳細はこちらの記事)
これにより、人口5000人以下の米国の小規模都市でも多店化を急速に進めてシェアを拡大できたのだ。まさに競争優位を実現するサプライチェーン改革である。(「私のウォルマート商法」サム・ウォルトン)
現代の一般的な手法探索
歯磨きのような消費財でも産業機械でも、消費者・ユーザーへ届くまでには、ウォルマートのサプライチェーン同様、原材料や売れそうな品物の発掘・生産⇒陸上や海上での輸送(⇒加工するなら工場での部品製造⇒陸上輸送⇒工場での完成品製造⇒陸上輸送)⇒物流センターの在庫として管理⇒販売店での陳列⇒受け渡し、…といったような長い物の流れがある。
このような物の流れ、すなわちサプライチェーンは広い視野でとらえると様々な企業間、もしくは部署間で区切られている。そのため、いつどれくらい売れた / 作った / 輸送した 等のデータは必ずしもサプライチェーン全体に行き渡っているわけではない。
しかし一つの企業を超えて少しでも広い範囲のデータが関係者に行き渡れば、トヨタのカンバン方式が一つの例だが、理論上は輸送や製造など生産活動が効率化され、企業にも利益が増えそうなものである。
企業をまたいだデータの連携は、技術的には最近可能になってきている。「データメッシュ」と言われることもあるが、データ自体を格納先フォルダから動かさず、メタデータを集約管理しておいて必要な時だけ動かし、ダッシュボードを最新に保ったり、AIで需要などを予測することが出来るようになっているのだ。
サプライチェーン最適化のアイデアに関して、2023年に経済産業省の予算を使って実験した事例が公開されている。それはマイクロソフト社の事例紹介の一つであり、クラウドの他にDatabricksというAI/データ基盤ツールを用いている。
ここで検証されたのは、一つのサプライチェーンに連なる下記の企業群が集まり、マイクロソフトとDatabricksのシステムで企業横断でデータ連携すれば、人やAIによる需要予測を行って売り場設計や食品製造計画に反映することで、スーパーでの店舗売上増大(おそらく、食品加工会社も売上を伸ばしただろう)にも、食品ロス問題解決の観点でも明確に成果が出せたということだ。
- 九州地方の地元スーパー
- 九州地方の地元商社
- 上記のスーパーに納品する食品加工会社3社
- ITコンサル
実現のコストだが、この事例でAzure Databricks利用料は月数千円~数万円で済んだということであり、技術的・費用的な観点からは、既に十分実用的なアイデアなのである。
冒頭のウォルマート事例で紹介したようなサプライチェーン改革は物流センター開設というハードも伴っていたが、この事例ではソフトウェアだけでも競争優位が低コストで作り出せている。
サプライチェーン強化の技術普及
それでは日本全国でこのようなサプライチェーン最適化が為されているのだろうか?前述のDatabricksが日本で急成長しているという報道は出ているので、日本でどこかの企業が取り組んでいるのは明確である。Databricks自体が複数の大企業の導入を誇っているから、おそらくは彼らやコンサルティング会社の提案を受けながら、予算や人材の豊富な大企業から導入が進んでいるのではないか。サプライチェーンを自社内で広く管轄している大企業が、まずは社内のデータを活用することに注力しているだろう。
それでは中堅中小企業にこの流れは及ぶだろうか?私はここで重要になるのがPEファンドではないかと思っている。大企業と取引があり彼ら主導でサプライチェーン効率化を進める取り組みがある、もしくは自社内に活発なIT部門があってサプライチェーン最適化を提言してきている、という事例であれば、自然と最適化は進むかもしれない。
そうでない場合には自社だけで行うのはハードルが高い。まずサプライチェーンが多くの企業に分散しているので、サプライチェーン上の他社に働きかけて一緒に最適化の動きを作さなければいけない。コンサル企業を雇うのは費用負担が大きいので、比較的新しいITツールについて学び、実装・活用するまでに習熟しなければならない。使いこなせるベンダーが近くになければ、自社で使いこなさなければならない。
しかしPEファンドにはこの解決のリソースがある。
- まずLPに対象サプライチェーン上の大手企業が名を連ねていれば、協力を直接呼びかけて再編に力を貸してもらえるかもしれない。共に再編に動く人手を出してもらえなくても、せめてデータ連携だけでもしてもらえれば成果である
- ファンドの資力と人材により、周辺企業の理解を得て協力体制を築けるかもしれない。良い企画を作り、10社20社と提案してお互いに利益があることを説いて回れば、何社か協力は得られるだろう
- ファンドの資力と人材により、AI/データ基盤を築くことができる。ファンド内に他投資先での成功例がたまっていれば、それが特に力になるだろう
- ファンドがサプライチェーン上の他の企業と資本提携し、企業を同一グループにまとめることが出来たなら、協力はより容易に進むだろう
技術的に可能な企業・業界横断での効率化を、PEファンドは上記の手法を通じて実現することが出来るはずなのだ。サプライチェーンが最適化されれば利益が増やせる(⇒株価も伸びてファンドも利益を得られる)だけでなく、先の例で出た食品ロス低減をはじめ、無駄な物流、無駄な製造活動を減らすことが出来る。人手不足や燃費上昇、円安での輸入品価格の上昇など課題が多い中で、社会的な意義も大きいプロジェクトになると思われる。これからの事例創出に期待したい。