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産業史の探究

新たな予測技術と事業化:計算手法とデータ処理技術

公開日:2026/10/16

最終更新日:2026/10/17

産業史を振り返るとき、「それまでは人間が制御できなかった事柄を制御できるようにすることを事業にする」というパターンに出会うことがある。これは産業を問わずに登場している成功パターンである。

このパターンには、更に分解すると2つの系統がある。

  • ① 新しい制御の計算ロジックを活用した
  • ② ロジックは分かっているのだが、それを適用できるような新しいデータ処理技術を活用した

例えば、①のうちで影響の大きかったものとしてすぐ思い浮かぶのはゴールドマン・サックスとモデルナだ。そして②は技術革新が現在進行形で進められている。

ゴールドマン・サックスとオプション取引

金融業界で、オプション取引という取引形態が存在する。これは株式オプションで言えば「要望に応じて、投資家に一定期間あらかじめ決めた価格で新株を買う権利を与える」といった、未来の売買権を取引できる商品である。(日本証券取引所の解説はこちら)

しかし、米国で商品として登場して以降、「この権利にはいくらの値段がつくのか?」という予測には根拠ある説明がつかず、1960年代にはオプション取扱業者のオフィスで細々と店頭取引されていたという。これを1970年頃にゴールドマン・サックスはいち早く社内で扱うことにした。その背景には当時出回っていた、フィッシャー・ブラックとマイロン・ショールズの価格評価方式の論文があったという(「ルービン回顧録」ロバート・ルービン)。この数式を適用したオプション取引の事業化は、やがて米国の金融業界の主要事業にも育っている。(下記はいずれも同書より抜粋)

”オプションはデリバティブの一種で、ワラントや先物などの有価証券は株式や債券などの原株の価格の変動を受けてその値が変化する。…(中略)…トレーダーたちは、オプションの価格は株価の価格変動性を反映するはずだと考えていたが、その価値を算出するシステムはまだ存在しなかった。しかし、価格変動性に基づく評価方式について詳述した、フィッシャー・ブラックとマイロン・ショールズの未公開の論文が出回っていた。”

”今日では有名なこの「ブラック・ショールズ・モデル」は、私が初めて、トレーディングに数式を応用したケースだった。”

”ゴールドマン・サックスは、このオプション取引を機に、証券に関するデリバティブ取引を始めるようになった。これはやがて株式、債券、外国為替に基づくこれまでにない新商品が次々に開発されるにつれて、ゴールドマン・サックスのみならずウォールストリート全体の主要取引となった。”

オプションの価格を計算するロジックを適用し、様々な証券のデリバティブ取引を事業化したのである。

モデルナとモデルナ・ワクチン

次の事例はコロナウイルスの流行に際して、人類の健康に大きな貢献をもたらしたモデルナ・ワクチンの開発である。この開発を主導したのは、フラッグシップ・パイオニアリングというベンチャーキャピタルであり、彼らは自らメッセンジャーRNA(mRNA)という物質を用いたワクチン開発の学説(ハーバード大学で研究をしていたデリック・ロッシ博士)が事業化できる内容だと考え、経営者と研究者をチームにして会社を設立し、事業化を追求した(「ベンチャー・キャピタリスト」後藤直義ほか)。フラッグシップ・パイオニアリングは同様な学説と経営力と資本の組み合わせを相次いで作り出す試みを繰り出しているという。

”フラッグシップの投資先スタートアップの多くは、社内にいるサイエンティストたちでアイデアを議論して、社内でインキュベートして、社内から孵化させた会社たちです。ここは、まだだれもつくったことのない会社をつくるための場所なのです。新型コロナウイルスのワクチンの製造をしているモデルナも、フラッグシップで誕生したスタートアップです。メッセンジャーRNA(mRNA)という物質を使って、人間の体にクスリをつくらせようというアイデアは、2010年にこのベンチャーキャピタルで生まれたものです。”

”本格的にスタートアップとして立ち上げようというときに、ヌバール(フラッグシップの創業者)はCEOとなるべき人物を口説き落としてきました。それが大手医薬品メーカー(フランスの診断薬メーカー バイオメリュー)の経営者であった、現経営者のステファン・バンセルです。このモデルナのプロジェクトを成長させるために、VCが外部からCEOを採用してきたわけです。”

mRNAという物質で細胞の働きを制御できるはずだという制御の計算ロジックから、ワクチン製造を事業化したのである。

データ収集の事業化

IoTやクラウド技術、AI技術の革新は、クラウド事業者などIT/AI業界のプレイヤーにデータ処理技術の活用による事業化の機会をもたらしてきた。

ここについては、既にネット上に、大手クラウド事業者が事例紹介を積極的に展開している。

例えばGoogleのデジタルツインのページをみると、そこで訴求されている価値は「機械の動作に異常が見られたら直す」、といった従来から存在するロジックであるが、これを適用できるレベルがクラウド登場前と大きく異なる。

センサー機器からのデータをクラウド上に一元的に収集し、それをBig Query(定型的な処理で大規模にデータ加工)などといったGoogleの処理サービスにかけて精密に分析できるようにしたところに大きな価値があるのだ。
※Vertex AIといったAIの機械学習サービスでデータを活用することもできる。この場合、単なるデータ収集・加工を超えて、大規模データの中にある法則性を読み解き、より良い予測を行うための新たな計算手法を導き出してくれる。(しかも、設備の入れ替えなどでデータの分布が変化するケースに対応して、定期的な見直しも自動で行ってくれる)

このような大規模データ処理の技術革新を活かしたデジタルツインのサービスは、Microsoft Azureでも、AWSでも提供されている。

まとめ

計算手法ドリブンの事業化、データ処理技術ドリブンの事業化とも、各事業の関連する産業の収益を拡大し、ひいては社会の効率化を進める成果をあげてきた。

現在の機会に関して、新たな計算手法の研究がAI活用によって加速されているであろうこと、データ処理技術はIT/AI分野への投資が進められており新たな技術が日々登場していることが明らかである。「今は過去のいかなる時代と比べても大きい」と思う。

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