大前研一氏の著作である企業参謀は、もう登場(1975年)から50年経ち古典になりつつあると思うのだが、今でもコンサル業界のほぼ全員読んでいるのではないかという作品である。この冒頭に登場するのが、「パッケージの中身を分解して組み立て、攻勢に転じる」という発想だ(著作では、これをスポーツ旅行や理髪店といった親しみやすい事例で説明してくれている)。
この視点を持って大手PEファンドのサービスを書籍やインタビュー記事などから分解していくと、多くの要素が混然一体となって投資先企業への経営支援サービスを構成していることに気づく。役員レベルの人材採用、経営指標の策定と管理の仕組み構築、現場のニーズヒアリング、同業企業の追加買収、製品・サービスのラインナップ拡大や地域拡大に向けた買収、製品・サービスの価格見直しと交渉支援、企業改革エキスパートの紹介、等々が出てくる。しかも、常駐して改革に伴走するような事例もある。
大型の投資案件に伴う大企業改革であれば、数十の施策群からなる戦略を組み立てて手厚く伴走することが必要かもしれない。しかしこれが、そこまで大きくないシンプルな事業の企業投資だったらどうだろうか。「本当にここまで必要だろうか?大型案件の10分の1の人手をかけるだけでも結構な効果があるのではないか?」と思うのではないか。その場合、いくつか要素を選びとり、組み合わせ、新たに簡素なサービスにすることで、満足度を保ちながらより多く提供できるかもしれない。
破壊的イノベーションの理論は、革新的な企業が盤石な大手企業からシェアを勝ち取る推移を説明する。既存大手の経済合理的な選択(利益率の高い顧客層に集中する)を進めることで、他の顧客層が放置され、革新者に機会がもたらされるという理論だ。経営学のクレイトン・クリステンセン教授が著作(例えばイノベーションの最終解など)で紹介した理論で、放置されている顧客には既存大手のアクセスしない潜在顧客や既存大手のサービスに過剰感を感じている顧客がある。
過去の破壊的イノベーションとして挙げられているパターンには下記がある。
- 有線の大手電話会社に対して無線通信会社が利益率の低い顧客獲得を手始めに成長し、シェアを勝ち取る
- 旧来の大学・大学院に対して最低限の講座・施設を提供する安価な社会人向け大学が現れ、社会人層でのシェアを勝ち取る
- 大手航空会社に対して特定の都市間限定&航行中のサービス無しの格安航空会社が現れて成長し、シェアを勝ち取る
仮にものすごく手を抜いたPEファンドの経営支援サービスに効果があるのだとすれば、例えば大手PEファンドが数十億円程度の投資案件を10倍手がけて価値を出し、経営改善する企業も投資収益を得るPEファンドも、双方に利益をもたらす「簡素に大量案件をこなすPEファンド」ビジネスが成立するだろう。
例えば海外展開サービスだけ簡素に行う場合は成り立ちそうだ。地方の中小企業に、「外資系大手PEファンドや商社系大手PEファンドに海外展開だけ本格的に手伝ってもらえれば、大きく企業価値を上げられる」と思っている企業があるはずだ(売上数百億円のメーカーだったキトー社は、経済産業省のサイトでも案内されるように、ファンドの力を借りて海外展開を加速した。この小型版・簡易版があるはずだ)。そして本当にPEファンドメンバーがリモート中心で海外展開の販路開拓を手伝ったり海外展開に強い人材の採用を手伝うこと等で業績を上げられるとすればこの狙いは成り立つ。
今はAIエージェントの登場で、特に業務を簡易的に大量にさばいていくことの現実味は高まっている。理論にとどまる破壊的イノベーションの戦略を実装するかもしれない技術が日々世に出てきているのだ。今後、簡素に大量案件をこなすPEファンドが多くの成功事例を作り出すのではないかと予想している。