PEファンドが投資先の経営改革を行うにあたり、よく取られる手法の一つが同業の買収である。小売業界、飲食業界、サービス業界、どのような業界でも、同業他社を買収すれば大体は物流や製造、人員配置を最適化する余地が(少なくとも理論上)出てくる。M&Aは投資銀行などをバックグラウンドとするメンバーも多いPEファンドの得意とする手法でもあり、よい打ち手だとも思う。
まだPEファンドが出てくる前ではあるが、この手法が国家的な規模で取られた事例がある。それは戦後富士製鉄と八幡製鉄に分割されていた日本製鉄が、1970年に合併した事例である。これは合併検討が公表された1968年から2年間も公正取引委員会で独禁法審査にかかっていたなど国民の関心が高く、後年には独立行政法人から合併効果の調査公表もなされた(合併にあたり、独占禁止を免れるために鉄道レール事業を日本鋼管に譲渡し、高炉一基を神戸製鋼に譲渡し、ようやく合併が認められた)。
経済学者の調査では下記などが述べられている。
- 合併無しの場合のシミュレーションと実際を比較して、独占影響は見られなかった
- 八幡製鉄、富士製鉄の平均生産コストと新日鉄の生産コストを比較すると、生産の限界費用が有意に減少したことが確認できた
- 新日鉄が両社の最善の技術を結集して1972年に大分製鉄所を稼働させるなど、合併してこその生産効率化施策が確認された
1960年代、1970年代の企業データはすぐに入手できてはいないが、信頼度の高い研究者の確認結果ではある(上記資料で、細かい一次情報(生産トン数や従業員数、売上や費用など)は出ていない)。
当時の富士製鉄の社長であった永野重雄さんは、「私の履歴書」(日本経済新聞社)の中で合併の狙いが明確に生産性向上にあったことを述べている。
”所得水準を上げていくには、先進工業国型になった企業が、むだをできるかぎりなくすよう体質を改善していくことだと言いたいのである。いま(1969年)世界の20位にある所得水準を10位に、そして5位、3位へと上げていく責任を、我々経営者は負っている。私はそれを鉄鋼の一角から始めようと思い、八幡と藤野合併に踏み切った。これが合併への根本理念である。”
そして永野さん自身が「私の履歴書」で例にあげた体質改善の施策は下記である。
- 製品加工過程での工場間輸送の効率化(北海道から九州への移動を解消するなど、年数十億円ほど削減が見込まれたらしい)
- 両社の技術を持ち寄った開発
- 原料輸入の効率化
- 販路の最適化
1946年の経済同友会の創立メンバーの一人でもある氏は、その設立趣意書などみても経済復興への思いや危機感が相当に強かったのではないか。
時代をくだり、現代の鉄鋼業界も再編の激しい世界である。新日本製鉄と住友金属、日本製鉄とUSスチールなど巨大な再編は新聞一面で話題になる案件だが、それ以外にも中小規模の再編が行われている。
その中小規模の再編にはPEファンドも関わっているのだ。
2024年に中小鉄鋼メーカーの経営を整え、大企業に合流させた、ベーシックキャピタルの佐藤型鋼案件はその直接的な事例の一つだ。ファンドの公式サイトに投資先の経営者の声があり、これによると創業者が組織を切り盛りしている時代から組織的な経営への体制変革を支援していたようである。鉄鋼業界に創業者のリーダーシップで作り出された事業をPEファンドが自律的な組織に作り上げ、既存の大企業に合流させてゆくという役割は今後もありそうに思う。
他にも2022年に丸の内キャピタルが経営権を取得したKMCTの事例もある。これは正確には鉄鋼会社が保有する銅管事業であるが、現在進行形で(2026年)同業を国内外様々な企業から買収して集め、集約して強化している最中であることが沿革から伺われる。
このように、鉄鋼会社からみればコアビジネスから出てきた周辺事業を現金化し、その事業自体も今後継続的に運営できるよう整えてくれるという役割も、PEファンドが今後も担いそうな領域である。
業界再編が行われる際、リーダー企業による再編と併せて周辺事業のPEファンドによる再編が生産性向上をすることが現代では考えられるのではないかと思う。