PEファンドは多くの場合、投資先企業の経営幹部人材の採用支援、社内の情報可視化や意思決定プロセスの改革などを通じて、経営層が企業を経営していく在り方、すなわち経営体制を強固にしていく。
PEファンドに組織的な経営体制を築き上げてもらうことを期待する創業者やその後継者などの声も、時としてインタビューで目にする。いわば経営支援の看板メニューの1つだと言える。
この経営体制というものについては、時代によって新たな意見が加わっている。21世紀をふりかえると、社外取締役を増やすのが良い、社外取締役にはバックグラウンドの多様性を含めるのが良い、多様性の中で女性比率が重要、等々の意見が数年ごとに追加されている様子である。その背景にはSDGsといった企業の社会責任を問う潮流もあり、そのようなテーマを掲げる上場株ファンドが投資基準に反映するような事例もあった。
そうなると、時として厳しい再建にも取り組まなければならないPEファンド業界の関係者は、おそらく「企業が本当に業績を上げることだけを考えていたような時代にはどんな経営体制の考え方がトレンドになっていたのか?」という点が気になるのではないだろうか。
20世紀中盤~後半の日本の経営体制への考え方
日本が急速な経済成長を遂げていた頃にどんな経営体制を重んじていたか、参考になる資料がある。
「取締役・監査役ハンドブック」(1965年、商事法務研究会)の第5章で特筆されるのは、常務会という組織の設置である。この背景と機能、構成について、同書では次のように説明される。
- 常務会制度は昭和26、7年(1951、2年)以降産業界各社にあいついで採用されたが、その設置の必要性が生じたのは一面においては取締役会が事実上経営管理の意思決定機関としての機能を十分に果たし得ないことが認められたことであり、他面では代表取締役である社長が事実上最高意思の決定、全般管理、部門間調整という広範な機能を一人で遂行することが困難となってきたことにある。
- 経済成長を背景とした企業活動の活発化、企業規模の急速な拡大に対処する最高経営層の期間として常務会が設置されてきたのである。経済同友会の調査(昭和36年:1961年)では調査対象200社中常務会を設置する会社はその84.5%の169社に達している。
- 常務会は…(中略)…社長を中心とし、取締役会権限事項の立案、全般的経営管理の執行を主たる任務とする協議機関とするのが通常である。
- 全般的経営管理の具体的な内容は極めて広汎であり、長期経営計画をはじめ短期的な個別執行計画、部門間調整、重要な日常業務執行までを含み実際上も各社の実情に応じ多岐を極めている。
- 常務取締役以上が大多数であって、取締役または全般的経営管理に直接関係する部長を正規の構成員とする会社は少なく、…(中略)…常務会が、必要と認めた時は各部長、その他の出席を求めてその意見を聴くことができる
- 常務会の開催頻度は週1回の開催が最も多く、随時、月1回、週2回がこれに次いでいる。
常務会についてはピーター・ドラッカーの同時代の書籍「The Practice of Management(現代の経営)」(1954年)にも言及がある。登場する背景は、日本の上記書籍と同じく、成長する企業の統治を社長が一人で担いきれなくなったことのようだ。その状態を放置していると膨大な社内の情報を把握できないまま意思決定する事態や、取り巻きの人々からの情報が重みをもつ事態に陥ってしまうため、常務会を導入したようだ。この考えを、同書より何か所か抜粋してまとめるとするなら下記となろう。
- 草創期においては、企業は一人の人間の延長である。しかし、1人のトップマネジメントからトップマネジメント・チームへの移行がなければ、企業は成長どころか存続もできない。
- CEOの仕事はチームによって行われている。最も進んだ企業が、スタンダード・オイル・オブ・ニュージャージーである。同社のCEOは、14人の常勤役員からなる取締役会そのものである。より一般的なパターンが、GEにおけるCEOのチームである。すなわちそれは、社長と、社長代行ともいうべきグループ担当執行副社長、研究開発、マーケティング、総務などの機能別部門の目標や政策に責任を持つ副社長からなる常務会である。そのような常務会をもつ大企業としては、ニューヘイブン鉄道、アメリカン製缶、ユニオン・カーバイド、デュポンがある。
ドラッカーの著作が日本の経営体制の思想に影響を与えたであろうことは当時の様子(1959年に来日して開催した講演会が大盛況、著作が50万部をこえる販売数)を伝える日本経営協会の記事などからもわかる。日本では副社長が何人もいるという体制が一般的ではなかったから、米国大企業では社長と複数の副社長たちが集まって行う会議体と同様な役割を担うものとして、常務取締役以上を参加者とする「常務会」が定着することになったのだろう。
現代の経営支援・経営改革への示唆
苦境からの脱却、あるいは停滞を打開して飛躍的成長を目指すといった経営支援先企業では、多くの非日常的な施策を打ち出して経営改革することになるため、その初期から社長の取り扱う情報量は多い。そして施策群の狙いがあたり、成長できた際には、企業規模の急速な拡大をむかえることになる。
これは常務会を組成して経営にあたることを選んだ20世紀中盤の日米企業と類似した状態である。
経営の組織化、すなわち数人のチームによる経営体制を正式に立ち上げて社長と共に経営を担うことが、企業の状況変化に耐える方法なのだと思う。