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産業史の探究

企業の経営体制史:20世紀の「常務会」によるチーム経営への移行

公開日:2026/9/3

最終更新日:2026/9/18

PEファンドは、投資した企業に資金を提供するのみではない。幹部人材の採用を手伝うし、特にオーナー企業であれば確実に新たな経営執行体制を築くことも支援する。特定の業界に強いファンドであれば、販路や調達先の開拓などサプライチェーンの改革も行っている。

この中で、中小企業案件で特に期待されているのは経営執行体制の改革ではないか。PEファンドと組んだ経営者(創業者やその後継者など)の声が経済産業省の様々な資料に載っているが、そうしたインタビュー記事で経営執行体制の改革を期待する意見が出ていることが多いのである。(中小企業白書など)

日本や米国で企業活動が本格的に始まった20世紀には、創業者ないしその後継者などCEOの個人的なリーダーシップに頼る経営体制からチーム制に移行することが広く悩まれていた。当時の経営思想には、現在の中小企業(時折大企業でも悩んでいる様子がニュースになる)が悩むこの経営体制移行の課題に対する解決の糸口があるように思うので、今回はそれらを紹介したい。

20世紀中盤~後半の日本の経営体制の考え方

日本が急速な経済成長を遂げていた頃にどんな経営体制を重んじていたか、参考になる資料がある。
「取締役・監査役ハンドブック」(1965年、商事法務研究会)の第5章で特筆されるのは、常務会という組織の設置である。この背景と機能、構成について、同書では次のように説明される。

  • 常務会制度は昭和26、7年(1951、2年)以降産業界各社にあいついで採用されたが、その設置の必要性が生じたのは一面においては取締役会が事実上経営管理の意思決定機関としての機能を十分に果たし得ないことが認められたことであり、他面では代表取締役である社長が事実上最高意思の決定、全般管理、部門間調整という広範な機能を一人で遂行することが困難となってきたことにある。
  • 経済成長を背景とした企業活動の活発化、企業規模の急速な拡大に対処する最高経営層の期間として常務会が設置されてきたのである。経済同友会の調査(昭和36年:1961年)では調査対象200社中常務会を設置する会社はその84.5%の169社に達している。
  • 常務会は…(中略)…社長を中心とし、取締役会権限事項の立案、全般的経営管理の執行を主たる任務とする協議機関とするのが通常である。
  • 全般的経営管理の具体的な内容は極めて広汎であり、長期経営計画をはじめ短期的な個別執行計画、部門間調整、重要な日常業務執行までを含み実際上も各社の実情に応じ多岐を極めている。
  • 常務取締役以上が大多数であって、取締役または全般的経営管理に直接関係する部長を正規の構成員とする会社は少なく、…(中略)…常務会が、必要と認めた時は各部長、その他の出席を求めてその意見を聴くことができる
  • 常務会の開催頻度は週1回の開催が最も多く、随時、月1回、週2回がこれに次いでいる。

常務会についてはピーター・ドラッカーの同時代の書籍「The Practice of Management(現代の経営)」(1954年)にも言及がある。登場する背景は、日本の上記書籍と同じく、成長する企業の統治を社長が一人で担いきれなくなったことのようだ。その状態を放置していると膨大な社内の情報を把握できないまま意思決定する事態や、取り巻きの人々からの情報が重みをもつ事態に陥ってしまうため、常務会を導入したようだ。この考えを、同書より何か所か抜粋してまとめるとするなら下記となろう。

  • 草創期においては、企業は一人の人間の延長である。しかし、1人のトップマネジメントからトップマネジメント・チームへの移行がなければ、企業は成長どころか存続もできない。
  • CEOの仕事はチームによって行われている。最も進んだ企業が、スタンダード・オイル・オブ・ニュージャージーである。同社のCEOは、14人の常勤役員からなる取締役会そのものである。より一般的なパターンが、GEにおけるCEOのチームである。すなわちそれは、社長と、社長代行ともいうべきグループ担当執行副社長、研究開発、マーケティング、総務などの機能別部門の目標や政策に責任を持つ副社長からなる常務会である。そのような常務会をもつ大企業としては、ニューヘイブン鉄道、アメリカン製缶、ユニオン・カーバイド、デュポンがある。

ドラッカーの著作が日本の経営体制の思想に影響を与えたであろうことは当時の様子(1959年に来日して開催した講演会が大盛況、著作が50万部をこえる販売数)を伝える日本経営協会の記事などからもわかる。日本では副社長が何人もいるという体制が一般的ではなかったから、米国大企業では社長と複数の副社長たちが集まって行う会議体と同様な役割を担うものとして、常務取締役以上を参加者とする「常務会」が定着することになったのだろう。

現代の経営支援・経営改革への示唆

20世紀の日本企業は、企業規模拡大によって社長への業務負荷が高まる問題を「常務会」というチーム体制の構築で乗り切った。これを一段抽象化すると、「社長が業務に対応できなくなって企業経営に問題を起こしかねない局面を、経営幹部のチーム体制構築で乗り切る」という図式になる。これは現代でも広く当てはまるに違いない。

  • 社長が業務に対応できなくなるパターン
    1. 企業規模拡大で社長業務の「量」が増える
    2. 業界の変化が大きくて、社長業務の「質」が変わる
    3. 社長業務の量も質も変わらないが、老化によって社長の業務能力が減る

これらはいずれも、社長が業務を一人で行うのではなく、「常務会」のような経営チームを組成して業務分散するべきサインである。しかもいずれも極めて現代的なケースが想定できる。

  1. 企業規模拡大で社長業務の「量」が増える、現代的パターン
    • M&Aで他社を買収した結果、経営管理するべき組織の規模総量が大きくなる
      • 補足:M&A件数は年々増加中である。中小企業白書2026によれば、2000年頃には年間2000件なかったM&A件数は、2025年には年間5000件を超えた。これまで関係ないと思っていた方々も、当事者になる可能性がある。
    • 半導体やメモリ、電線といった商材をたまたま扱っていたところ、米国IT大手のデータセンター増設をきっかけに引き合いが急に増え、組織が短期間で大きくなる
      • マイクロソフトは2025年のアニュアルレポートで、既に400か所のデータセンターを世界で運営していることに加え、更に世界最大の電力容量のデータセンターを建設中であることを公開している
      • 2026年、マイクロソフトはAIインフラや活用人材への教育に、2029年までに日本だけで1兆円以上投資する意向を公表している
      • 2024年、AWSは日本で2027年までに東京と大阪のクラウドインフラ向けに2兆円以上投資する意向を公表している
    • (その他、防衛や宇宙など、データセンターに続いて大きな経済の動きが起こるかもしれない)
  2. 業界の変化が大きくて、社長業務の「質」が変わる
    • 製造業務の多くをAIで自動化できることが分かり、実装に向けてAIの理解が必要になる
    • 自社の売上ポートフォリオで急に半導体企業向けが増え、半導体企業の業務の理解が必要になる
  3. 社長業務の量も質も変わらないが、老化によって社長の業務能力が減る
    • (割愛)

こうしてみると、商事法務研究会の本もドラッカーの本も古いものではあるが、いずれも現代でもよく起こる問題に対してじっくりと考えて解決策をもたらすヒントになりそうだ。

また、企業経営がテーマとなってはいるが、一つの事業部門、場合によっては一つの課でも起こりうる問題ではないか。味わいのある読書になると思う。

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