国土交通政策に、コンパクトシティ構想というものが存在する。2014年に策定された「2050年の国土のグランドデザイン」の一部で、今も看板の下ろされていない政策だ。政策実現チームとしてはコンパクト・プラス・ネットワーク形成支援チームという組織が作られており、2026年現在もチーム内で議論された資料が閲覧できる。
この構想は、大まかに、道路や水道、鉄道や医療機関といった生活に必要な機能を過疎地までずっと維持していくことが人口減少社会で現実的ではないこと・災害対策強化が必要であることから、地方圏の都市機能を徐々に地方中核都市に集約し、効率的に運用しようとする構想である。
この2014年からの構想に従い、地方自治体ごとに都市機能をどう配置するか検討した都市計画(地域公共交通計画、立地適正化計画など)が策定されており、各自治体による実行も進められてきている。
コンパクト化推進状況:駅周辺への人々の集中度合い
それでは、10年以上の時を経て、集約は進んでいるのだろうか。
簡易に、地方都市の人口統計と駅利用者数の推移をかけ合わせて見てみると、やや集約の傾向はみられそうだ。まだ微々たるものなのでより多角的な調査が出来るとより確かなのだが、都市にもよるが変化は起きていそうだ(データのそろい具合で比較年はやや変わる)。
- 静岡駅:駅近郊の人口比率が増えつつありそう(統計データ)
- 2014年の利用者は、静岡市人口71万人に対して1日5.8万人(8.2%)
- 2019年の利用者は、静岡市人口69万人に対して1日5.9万人(8.6%)
- 2024年の利用者は、静岡市人口67万人に対して1日5.6万人(8.3%)
- 新潟駅:変化はあまり無さそう(人口統計データ、駅利用統計データ)
- 2014年の利用者は、新潟市人口80万人に対して1日3.7万人(4.6%)
- 2019年の利用者は、新潟市人口79万人に対して1日3.6万人(4.6%)
- 2024年の利用者は、新潟市人口76万人に対して1日3.5万人(4.6%)
- 長野駅:駅近郊の人口比率が増えつつありそう(人口統計データ、駅利用統計データ)
- 2015年の利用者は、長野市人口38万人に対して1日2.1万人(5.5%)
- 2024年の利用者は、長野市人口36万人に対して1日2.1万人(5.8%)
変化は本当に小さい。「在宅勤務が増えており、実は駅利用者数以上にコロナ後の人口集約は進んでいるのだ」…という仮説も一応あり得るが、リモート勤務が進んでいるのは首都圏などの大企業が大半なのではないかという感覚もあり、やはり人口減少のスピードを上回るほどは集約できておらず、駅近辺という中核エリアであっても人口は減っているのではないか。
「住民が高齢になり過ぎて鉄道を使うことが減っただけで、実は居住の集約はもっと進んでいるのだ」…という仮説も成り立つ。これはあるかもしれない…(静岡駅前の病院の経営公開情報などみると、医師数が増えている)。
これが当たっているとして、人々の駅前への集約は微々~それなりの速度で、成功していそうだ。
企業活動の人口動態への対応と直近の変化
まず都市機能を担う様々な事業は、2026年現在でも人口分布に対して経済合理的な状態になっていない。代表的な事業で地域別の細かな収支が分かりやすいのは鉄道だが、鉄道会社から公開されている収支を見ると、例えばJR東日本のような収益性が高い大企業でも合計で千キロメートルを超える赤字路線を抱えている。赤字路線の廃止は沿線住民の生活に直結するため、あらかじめ地方自治体との協議をする慣行になっている。例えば2026年現在だと青森県が協議をしているところである。
しかし交通インフラの撤退は確実に進んでいて、国土交通省の「地域公共交通の現状」より抜粋した下図からは2014年~2023年で500kmほどの鉄道路線が廃止されたことがわかる(右軸の鉄軌道)。

つまり、国交省が看板を掲げ続けているコンパクトシティ構想は着実に日本の国土の形を変えているのだ。
このような重要都市機能の動向は、地方中核都市で事業を営む地元消費者向けのビジネス(小売店、飲食店や美容院などサービス業)の成功に大きく関わる。PEファンドが投資するにあたってコンパクトシティ化は見逃せない。顧客を消費者とするビジネスであれば商圏が非常に重要になるからだ。
企業向けの製造業であれば地方の人口集約度合いはあまり関係ない(トヨタ向けビジネスであれば、トヨタの自動車製造台数や車種が重要である等)が、小売業やサービス業は、要するに多く住民が住んでいたり多く人が行き交う方が、同じように店を構えて営業していても、より大きく売上が作れるのである。仮に地方企業をいくつか選び、経営支援する際に事業収益を因数分解してみるのであれば、地方の都市機能集約はきっと出てくると思う。
地方都市で商売する中堅中小企業が業績を伸ばすために重要な因数である「企業活動を行う地方都市中心部の居住人口」を増やすには2つの手段がありえる。
- 地方自治体に都市機能を集約してもらう(立地の規制、病院などの集約など)
- 大企業に都市機能を集約してもらう(鉄道、送配電網を減らすなど)
- 中堅中小企業自ら、集約できるよう動く(快適なマンションを建設する、などが考えられるかもしれない)
このうち1については、多くのPEファンドも共同で利益を得られる話だろうし、今後はさらに業界として政府に働きかけてより一層の推進を求めても良いのではないかと思う。2は前述の通り、経営効率に注意している大企業が自ら交渉して進めている最中だから気にせずとも進むだろう。3は業種によっては注力しうる。
それでは、コンパクトシティ化が今後進むことを見越して、どのような事業の特性を高めると今後成長できるだろうか。
産業史からは、ウォルマートの事例が出せそうだ。
今では米国最大のリアル小売企業のウォルマートは、まだ圧倒的な大手となっていなかった1970年代、競合他社が出ていけないような人口規模の都市でディスカウントストアを経営する手法を作り出し、シェアを拡大する一手とした。他の記事で経営改革成功事例としてふれた”物流センター”を活用し、人口集約が進みきらない段階から黒字を出せる事業構造を作り出し、いち早く出店することが成功の一つのパターンである。
”わが社はいよいよ重要な出店戦略を推し進めることになった。その戦略とは、他店が素通りするような小さな町に、適正規模のディスカウントストアを開くことである。そのころ(1970年頃)、同業のKマートは人口5万人以下、ギブソンズでさえ人口1万から1万2000人以下の町には出店しなかった。私たちは自分たちの公式が人口5000人以下の町でもうまくいくとわかっていた。”(「私のウォルマート商法」サム・ウォルトン)
”そのためには、物流センターから車で1日の走行距離内に出店する必要があった。そこで、物流センターを中心にできるだけ遠くに出店立地を見つけ、そこに次々と店を出していった。”(同書)
まとめ
コンパクトシティ化の流れは着実に進んでいる。2026年現在も注力されている政策である。このコンパクトシティ化の流れを中堅中小企業が活かすには、①集約されてくるエリアにいち早く進出すること、②コンパクトシティ化を加速してもらうことである。
このうち①のためにはサプライチェーンを高度化して事業の効率性を磨くこと、②のためには同業で集まって政界に働きかけることが有効と思われる。コンパクトシティ化が進むと共に、社会が経済的に豊かになることが出来るとすれば社会にとって良いことだと思う。どんどん進めてほしい取り組みだと思う。