金融業界による事業会社への支援状況は、日本銀行や各種の協会から統計が出ているため、その内容で明らかにすることが出来る。お金をどう動かして経済活動に影響を及ぼしているのか、景気循環のおおよその現在地がどこになるか、一次情報を確認できるのだ。
そしてその様子をマクロに眺めた後は、業界リーダー企業の経営計画や実際の投資活動をみて金融業界の今後の動向をある程度探ることも出来ると思う。
ここで金融業界というのは、内閣府のGDP(国民経済計算)統計でいう「金融・保険業」のことで、日本全体のGDPに対して、2005年~2024年の20年間において、だいたい4~6%程度の重みを持つぐらいの業界である。ただ、この業界は他の全ての業界と投融資を通じてつながっており、金融危機の社会での騒がれ方からも、与える(与えてしまう)インパクトはこの比率よりやや大きい。米国で経済を見続けてきた有識者が著書の中でうまくまとめてくれていたので紹介したい。
”国民貯蓄を最先端技術に投資するようにお金の流れを変えるのは、金融である。金融がGDPに占める割合は(米国も)10%にもならないが、良きにつけ悪しきにつけ、経済に与える影響はその割合をはるかに凌ぐ。さらに、金融の不安定は直接・間接を問わず、間違いなく、現代の景気循環の主要因である。” アラン・グリーンスパン米国FRB元議長(「リスク、人間の本性、経済予測の未来」)
それでは日本の金融業界が他部門に対して提供している支援はどれ程のものなのだろうか。
貸出もその他サービスも伸びてきている
日銀の資金循環統計は下記だ。預金・貸出統計だとさらに銀行・信金に絞った数値(預金が1100兆円で貸出は企業向けで450兆円など)がある。
- 「預金取扱機関」(銀行、信金、農林中金、農協、商工中金など)は1750兆円ほど預金を集め、貸出は1050兆円、投資が400兆円
- 「保険・年金基金」は保険や年金の払込料金で600兆円集め、貸出は40兆円、証券運用が360兆円
- PEファンドも含まれる「その他の金融機関」はほとんど借入400兆円と出資700兆円を集め、貸出660兆円、投資280兆円

同じく日銀の資金循環統計で過去の年度末(3月末)推移をみると、預金取扱機関は2010年代から預金を猛烈に伸ばしており、
それに対して貸出も同じペースではないが伸びてきている。民間企業は借入を伸ばせているようだ。金融業界から民間企業への支援は増えているのだ。
(預金取扱機関)
「預金」は、 2000年:1100兆円 ⇒ 2010年:1200兆円 ⇒ 2020年:1600兆円 ⇒ 2025年:1800兆円
「貸出+保有債券」は、2000年:1000兆円 ⇒ 2010年:1200兆円 ⇒ 2020年:1200兆円 ⇒ 2025年:1400兆円
(非金融民間企業)
借入総額は、 2000年:500兆円 ⇒ 2010年:400兆円 ⇒ 2020年:500兆円 ⇒ 2025年:700兆円


資金提供以外の支援は、
- M&A支援機関としての仲介支援(サイトを見る限り、おそらくほぼ金融機関だろう)の件数で、年間4000~5000件程度あるようで、直近数年のデータしかないものの増加してきている。
- PEファンドは、業界の協会のデータで年間150件程度の投資があるようだ。ここに出ていない(協会に登録していないファンドなどによる)小規模な案件があったとして、200件くらいだろう。更に、この件数は年々増えてきている。
支援効果は大企業でしか見られない
それでは次に、金融業界からの支援は効果を出しているのだろうか。これを示すのに象徴的な表が中小企業白書2026に存在する。中小企業の労働生産性が伸びていないのだ。日銀の主要時系列統計からは中小企業も借入金を増やせている状況がわかるため、考えられるのは、
- 貸出増加をうまく一人あたり営業利益創出につなげられていない
- 中小企業は大企業より借入利息を高く設定されており、営業利益を創出しても銀行等にとられる
といったところだ。2は説得力に厳しいものがある。金利が高いといってもせいぜい年間1~2%の差ではないか。
借入金の大きさがせいぜい事業活動に用いる全資産の半分程度だとすれば、投入資産あたりの利息は年間0.5%~1%くらいの差でしかないだろう(特に低金利時代だった2010年代は、その差は小さかったはずだ)。
その一方で、下記の2015年~2024年の労働生産性の伸びを計算すると、大企業は年間2.6%、中小企業は0.5%で2%以上の開きがある。(年間成長率は「(将来価値/現在価値) ^(1/期間) - 1」で計算できる)

それでは利益創出につなげる経営能力が差分になりそうだが、金融業界はこの支援を行っているだろうか。
一つのパターンとして中小企業白書2026の中で見られるのは(そして「日本のPEファンド」で見たように効果が出ている実態も見えているのは)、PEファンドによる支援スキームである。資本金1000万円の企業に対するPEファンドの支援で業績を向上している様子が語られている。
このPEファンド支援は前述の通り年間せいぜい200件だと思われる。足りるのだろうか?
金融業界からの経営支援には機会がある
これを考えるにあたり、まずPEファンド支援には、①業績がマイナスにさしかかった企業の再建、②業績が横ばい or 低成長の中堅中小企業の成長、③大企業の非コア事業など一部のカーブアウト、の3パターンあると見える。①②の企業は、同水準の経営支援サービスを提供するコンサル業界は費用感があわないが、株式報酬形式でPEファンド経由でなら経営支援を受けられる。③は売り手企業が高く売却できる相手としてPEファンドが出てくる場合になるだろうから、経営支援の必要性と別な力学が働きそうだ。
そこでまず①をみると、中小企業白書内で紹介されるように、負債額1000万円以上の倒産件数は日本に年間10,300件ある。もっとも従業員が10人以上となるとその1割程度ということで、1000件程度だろう。
この1000社は、負債額と従業員規模からすれば、一度は業績を伸ばして顧客基盤を築いた企業だ。経営難にさしかかったばかりで力があるタイミングで経営支援があれば、わざわざ資産の売買や従業員の就職活動やり直し、営業活動のやり直しを伴わずとも立て直せたり他の企業に合流させる方法があったのではないかと思える。少なくとも年間1000件くらい、経営難の予備軍になる企業は出てくるだろう。
そして②は売上10億円以上の企業10万社あるうち販路拡大など悩みを抱える毎年1%が該当するとして1000社程度。
この①②の需要だけをみたらPEファンドは年間2000社くらいに投資しうるし、それが出来れば経済の底上げ装置として金融業界の強力な支援部門になる。これを行うには業容を10倍ぐらいにする必要がある。今でも50社ほどに平均10人いるとして500人くらいが日本でPEファンド事業に携わっているかもしれないが、4000人くらい他業界から引っ張ってくるのだ。主なターゲットは、事業経営に興味を持つ人材を多く擁するコンサル業界だろう。
今はPEファンドが相次いで新設されており、転職サイトでもその報酬額とやりがいから人気な様子であり、成行でも数年後に到達するのかもしれない。金融業界からの非金融企業への支援を強化するドライバーとして、更なる成長を続けてほしい業界である。